折々の記 76

病院日和(びより)



    昨年の11月に三度目のガンの手術を受けてから回復までに2か月ほどかかりました。今回は7か所も切除したので、さすがにこれまでのように素早い回復は望めませんでした。

   ここ5年間は毎年のように手術をしていますが、膀胱ガンは再発率が高いと言われているので、これもしょうがないと思っています。こんなことならガンが見つかるたびに百万円をもらえる掛け金の高いガン保険に入っておくべきでした。

   それにしても泌尿器科にくる患者さんはほとんどが老人です。それも男性ばかりで奥さんの介添えを受けながらやって来ます。

   町の病院から紹介されてくる場合が多いので病状は軽くないはず。多くは奥さんが医師の話しを聞いて旦那に伝えています。旦那の方も一緒に話しを聞いているのですが、不思議なことに奥さんから聞かないとなぜか理解できないようです。

   そのためか私も医師からよく『ご家族の方は来ていないのですか?』と聞かれます。『自分のことは自分で決められますから』と答えていますが、ひょっとすると私も同じような老人に見られているのかもしれません。

   私の場合は、仕事をやめる3年ほど前から年に一度ですが血尿が出ていました。
   最初はとても驚きましたが、一回きりの血尿なので疲労のせいだと思っていました。

   その後、67歳で仕事をやめると夜中に限って頻尿になり寝不足になりました。町の泌尿器科を訪ねたら膀胱と腎臓に特大の結石があり、ガンも見つかって総合病院へ送られたわけです。おかげで退職しても行くべきところがあり、やるべきことができたのです。

   院内で観察していると、泌尿器科の医師は尿管結石や腎臓結石に対して意外と冷淡です。
   結石が詰まり、経験したことのない痛みに襲われ救急車でやってきても『そのうち尿とともに出ていきますから』と言っておしまいです。『レントゲンに写らないくらい石が小さいので衝撃波では砕けません。水を飲んで流しなさい。』というのです。

   幸か不幸か私の場合は鶉の卵ほどの大きな石が二つもあったので、若い医師がベテラン医師の指導を受けながら手術してくれました。実習のサンプルとしてはちょうど良かったのでしょう。

   その手術をしてくれた医師はしばらくするといなくなり、新しい若い医師にかわりました。そして気が付くと5年間で6人の医師が入れかわり担当になっています。
   大きな病院ほど安心感が強いものですが、若い医師が腕をあげるための修行の場でもあります。患者には未熟さへの寛容さが求められるようです。

   病院では原則、敷地内は禁煙です。院内でも頻繁に禁煙を知らせるアナウンスが流れます。
   このため、入院時には病院手前でタバコを吸ってから受付に行くのですが、毎度のことながら看護師が胸のポケットに入れたタバコを指さして没収してしまいます。

   それでも彼女らの巡回時間を計算しながら密かに病院を抜け出すと、近くのコンビニや喫茶店へ行ってタバコを吸っています。ただ手術直後は点滴や排尿の管につながれて身動きがとれません。電子タバコならわからないだろうと思ったのですが、看護師に聞くと『匂いでわかる!』といいます。このため2日間はがまんするしかありません。

   3日目に管が外されるとさっそく抜け出してランチを食べ、食後のタバコを楽しんで手術の成功を祝うのです。こんな有様なので、たとえ入院してもタバコは止められないでいるのです。