折々の記 69

小暑のころ

   夏本番に入ったとされる節気が小暑(しょうしょ)です。旧暦の7月7日から21日までをいいますが、いまの季節感なら梅雨があける7月15日から31日くらいでしょう。
  南風(はえ)とよばれる南の風が暑い空気を運んでくるので、七十二候でも温風至(あつかぜいたる)と南風の到来をつげています。

   海辺では北へ帰っていたウミネコたちがもどってきて、羽根が茶色の幼鳥たちが多く混じっているのを見かけます。
  末候(7月17日から21日)にも鷹乃学習(たか すなわち がくしゅうす)とあり鷹(たか)の子が飛ぶことを覚え始める時期にもなっています。卵からかえって一と月くらいのものでしょう。
  小暑は、多くの鳥たちの巣立ちの季節でもあります。

   ところで、暑いときにドライブでよく通る道があって、途中に一軒の納屋(なや)があります。
  いつもそばで一息いれて休憩するのですが、ある時、納屋の窓が開いていて、馬が顔をだしました。顔だけですが立派なサラブレッドです。納屋だと思っていたら馬屋でした。



    なぜ、こんな山奥に馬がいるのか不思議に思いましたが、近くにある神社で馬を使ったお祭りがあることを思い出しました。

  ここから少し下(くだ)ったところに加茂(かも)神社という古い神社があって、10月の例大祭には子供たちが馬に乗って参道馬場を駆けぬける 「お供馬(おともうま)の走りこみ」が行われます。
  この馬は、その時に走る馬で氏子の方が飼っているのでしょう。

   加茂神社は名前のとおり京都の上加茂(かみがも)神社につらなる神社です。
  その上加茂神社では、毎年十月におこなわれる葵祭(あおいまつり)で馬の駆けくらべをする競馬(くらべうま)という儀式が行われます。
  もともとは宮廷の行事だったようですが、あるとき上加茂神社に移されました。その際に、馬の飼育料として全国にある20ケ所の荘園(しょうえん)が与えられ、そのうちの一つが伊予の国の菊満荘(菊間)というから、このあたりです。
  おそらく 「お供馬の走りこみ」は上加茂神社の競馬(くらべうま)をもとに始められたのでしょう。

   競馬で使用する馬は、中央競馬に出走していた馬のうちケガや病気で引退する馬を引きとっているそうです。
  馬にとっては引退しても、年に一度ですが、華やかに着飾って疾走できる舞台が用意されているのです。そしてもし、年をとって走れなくなっても、地元の子供たちとふれあうホースセラピーとして生きていく道もあるそうです。

  暑いなか、車の音を聞きつけて、顔をだしてくれる馬がいるだけで心癒されます。