折々の記 92

人類の繁栄



   遺伝子は細胞が増殖するたびに複製されていきますが、ときに失敗してまちがった複製を作ったりします。

   それでもよくしたもので、間違いを修復するための遺伝子がちゃんといて、正しい複製に修正します。
   でも時には、修復が追いつかなくて複製まちがいの遺伝子がそのまま作り続けられたりします。

   その間違いが生殖細胞でおこれば、元の集団とは異なる特徴をもった集団がうまれ、何万年もたつうちには遺伝的に少しずつ異なった系統ができていきます。

   その後、運悪く環境が激変して多くの系統がいなくなっても、生き残った系統がその後に繁殖して現在を迎えているのです。

   こうした遺伝子の変異のおかげで、人類もチンパンジーと共通の祖先から分かれ、いくつかの原人類を派生させながら現在に至っています。

   60万年前に人の祖先と枝分かれしたネアンデルタール人もそのひとつです。
   現在の人類とネアンデルタール人は数万年の間、一緒に生きていたことが分かっています。それに、人類にはネアンデルタール人の遺伝子が2〜4%の割合で入っていることがわかったので、両者は過去に交雑していたことになります。

   そのネアンデルタール人に由来する遺伝子のうち、ある部分がヨーロッパや南アジアなどに多く残っているのに対して、東アジアでは無いか希少に等しいとされています。

   その特定の遺伝子が、今回のコロナウイルスの感染において重症化させる働きを持っていたので、ヨーロッパやアメリカ、インドで重症化する人たちが多かったわけです。

   ネアンデルタール人が滅んだ理由についてはわかっていませんが、こうした病気によるものだったり、気候変動によるものなど諸説ありますが、根本的な問題として繁殖率が低かったのではないかと言われています。

   これに対して人類は、繁殖率が高かったので繁栄したとも考えられています。

  人類の女性は、一年から二年たてば次の子供を産むことができますが、ネアンデルタール人はそんなに短い周期で産むことができなかったようです。
  それは人類より子供の成長が遅く、子育てに時間がかかったためと考えられています。

  人類は、両親や集団内の女性が育児を手伝う社会のため、女性の負担が軽くなり、より早く子供を産めるようになったと言われています。

  一般に生物の多くは繁殖を終えると間もなく去っていきますが、人は繁殖ができなくなっても生き残っています。
  それは孫の育児を手伝うために生きているわけで、そのことが人類の繁栄につながっているというのです。

  でも考えてみると、子供たちがやっと家を出て独立し、結婚して孫の育児を少しお手伝いしたら、次は年老いた両親の介護や看取りが待っています。

  それに『まだ働けるだろう』と定年が十年も伸び、そのぶん退職後の健康寿命が削られて、気がつけば 『手はふるえ 足はよろけて 歯はぬける 耳は聞こえず 目はとおくなる』

  こんな親の姿をみていれば若い世代が子供を多く産まなくなるのは無理もありません。

  これで本当に人類の繁栄につながるのかと首をかしげたくなります。