折々の記 72

禾乃登  こくもの すなわち みのる


  この夏は、日中に32度を超える日が続き、焼けるような強い日差しのせいで ほとんどを家の中で過ごしました。

  9月になってようやく気温がさがりはじめ、田んぼでは 8月下旬に開花したイネが実りはじめています。
  10月上旬には中生のヒノヒカリが収穫を迎えるので新米が食べられるはず。一方、極早生のコシヒカリはすっかり色づいて、禾乃登(こくもの すなわち みのる 42候)にふさわしい姿をしています。

  イネの品種には、極早生や早生、中生、晩生のタイプがあって、西日本では中生や晩生の品種が多く、粒は大きく粘りの強いおコメが好まれました。
   一方、東日本では、早生や極早生の品種が多く、粒は小ぶりで粘りが少ないおコメが好まれました。

  それが昭和31年に、コシヒカリが誕生してまたたく間に全国にひろがって、東西の品種の違いが無くなったのです。
  コシヒカリは作りにくい品種なのですが、東西の中間の特徴を備えているうえ、とにかく美味しかったので日本中で受け入れられました。   国民は戦後の飢餓の状態から抜けだして、おコメにも量より質を求めるようになっていたのです。

   イネの極早生や早生、中生、晩生といった品種は、開花から収穫までの日数はどれも42日とほぼ同じです。違うのは、田植えから穂がでるまでの長さです。
  とりわけ夏至を過ぎてから穂がでるまでの日数に違いがみられます。

  日の短さに敏感に反応してすぐに穂をだすのが早生のタイプ。
一方、日の長さに鈍感でなかなか穂がでないのが晩生のタイプです。
  冷害にあっておコメがつくれなかった東北や北海道では、より早く穂のでる早生の品種の導入にとりんで今やコメどころになっています。

  これも育種と栽培技術の進歩によるものです。
  最近は、新品種が外国に流出する事例が増えていますが、気候や土地、栽培技術があってはじめて品種の特性が活かされるので、たとえ種を手にいれたとしてもなかなか思うように作れないでしょう。
  農家が培った技術は、簡単には真似ができないものです。


             コシヒカリの稲穂がたれています。