折々の記 12

 オオタバコガ


  ミニトマトの実が大きくなりだした。楽しみに見ていたらヘタの横に小さな穴があいている。虫が入っているようだ。しかもひと房全部に穴があいている。 いつもながら果実の収穫では人が先か、虫が先かの競争になる。


   この虫はオオタバコガという蛾の幼虫である。ミニトマトが植わっている初夏から晩秋にかけて庭に居座っている。 幼虫は 3 週間ほどで蛹になって 2 週間ほどで蛾になる。一世代を一か月でまわしているようだ。もうすでに何世代かはこの庭で過ごしているのだろう。
   オオタバコガは三百ほどの卵を産むので世代を繰り返すたびに数は増えていく。「害虫の駆除は出始めに行うのが肝要」とこれまで言ってきたものの、自分の庭ではいつも手遅れになっている。

   一年間に繰り返す世代の数を化性(かせい)とよんでいる。年に一度しか発生しないものは一化性といい、二回なら二化性、三回以上は多化性という。 オオタバコガは 4 〜 5 回の世代を繰り返すから多化性である。最終の世代は土の中で蛹になって休眠しながら冬を越す。このため秋の気配を感じると幼虫は休眠の支度にとりかかる。
  幼虫は日長や気温の変化を感じると脳が神経細胞(食道下神経節)に指令を出して休眠をうながすホルモンが分泌させる。 分泌されたホルモンは血液中にあるトレハロースという糖をグリコーゲンに変えて細胞に蓄積し、糖の濃度を高めて細胞が凍結することを防ぐようになっている。
  ただし氷点下を下回る日が多い年にはさすがの蛹も生きづらいらしい。冬の間に土が耕されて蛹が地表近くに出てしまったりすると霜にあたって死んでしまう。蓄積したグリコーゲンも役にたたない想定外の出来事だ。 だとすると、オオタバコガには悪いがこの冬は、庭を少し耕してみようと思っている。