折々の記 71

大暑 


   旧暦の7月22日からの2週間は節気でいえば大暑にあたります。
  この大暑、季節感からいえば、今の8月の初めからお盆明けくらいになるでしょう。

  この時期は一年で最も暑い季節で  「土潤(つちうるお)いて溽(む)し暑し」といわれるように、陽炎(かげろう)がたちのぼり、熱気が体にまとわりついてきます。日中は外に出歩くことなどやめた方がいいです。

   正岡子規もあまりの暑さに閉口して
 「これは これは これは今年の熱さかな」 とか
 「ただあつし 起きても ゐても ころんでも」などと詠んでいます。

  風通しのよい部屋で横になっていると、いつの間にか体がだるくなって「老人の熱中症」という文字が頭をよぎり、急いでクーラーの効く部屋へ退散しなければなりません。
  庭の草木もあまりの暑さに萎凋(いちょう)してしまい、陽が落ちるのを待って水を撒いて回復させます。

  その大暑のころの8月1日を八朔(はっさく)とよんでいます。
(さく)とは新月の最初の一日のこと。朔日(さくじつ)とは「ついたち」を意味するので、8月1日は八月朔日(さくじつ)になり、略して八朔と呼ばれます。
  八朔の日は、早生の稲が収穫を迎えるのでお世話になった方々に新米を贈ったようです。お中元のようなものでしょうか。

  徳川家康が秀吉の指示をうけてはじめて江戸城に入いり、関東を治めることになった日が天正18年の8月1日といわれます。
  徳川家では幕府のもとになったこの日を佳日(けいじつ)と定め、大名たちは皆、この日に江戸城へ登城して祝詞を述べたといわれます。八朔は、江戸期をつうじて正月に次ぐおめでたい日とされていました。

  八朔といえば、柑橘にもその名がみられます。果実の大きさはみかんの3倍ほどあり、果皮は厚いうえ果肉を包む「じょうのう」も厚いので剥いて食べなければなりません。
  味はさわやかな酸味とほんのりとした甘さ、少しの苦みがあってグレープフルーツの食感に似ています。
  農家ではこれを 1月に収穫したのち貯蔵して、酸が減った3月から5月にかけて出荷します。
  この八朔、果実の特徴から見てブンタンの血が入っていることは確かなようですが、何と何から出来ているかわかりません。そのため雑柑という範疇に入れられています。

   通説では、1860年(安政7年)に広島県因島(いんのしま)の恵日山浄土寺の境内で、見知らぬ樹が生えてきて大きな果実をつけました。
  住職の恵徳上人が、この樹が見つかった日から八朔と名づけたようですが、珍しい果実が偶然生まれたので「これは慶事(けいじ)である」として、江戸期に縁起が良いとされる「八朔」の名をつけたともいわれます。

   このほか、最近では8月1日を水の日にしています。今年は水不足の心配がないので安心して庭木に水をまいていますが、市では老朽化した水道管をやりかえるために水道代を値上げしたといいます。
  来月あたりは、その請求書をみて心が少し寒くなるかもしれません。


            八朔の果実とカット写真