立ち止まってみてごらん   

 

      今月のフォト    7 月                  

       折々の記    99    みかん王国から柑橘王国へ
      折々の記 100    続・墓じまいの悩み   
        折々の記 101   続々・お米の話し       
      
     折々の記 102    土入れから始まりました

 いまの家を建てた当初、庭には二本の松の木が植っていました。新築祝いだと言って義父が自宅にあったものを移しかえてくれました。

 それが一年ほどたつと一本は枯れ、残りの一本も風が吹けばグラグラと揺らぐようになりました。

 松は痩せた土地でも育つ生命力の強い木です。その松が枯れてしまったので慌てました。しかも枯れたのは妻が生まれたときに植えられた記念すべき樹でした。

 慌てて植穴を掘ってみると、赤土の層が申しわけ程度にあるだけで、すぐに大きな石やコンクリートの破片がぎっしりと埋まった層に突き当たりました。

 さすがの松でも、これでは根をおろせなかったでしょう。

 聞けば、ここにはもともと缶詰工場が建っていて数十年前にそれを取り壊した際に瓦礫を埋めて整地したらしい。長らく放置されていたところ、持ち主が換わって少しだけ土を入れて分譲地にしたという。

 どうりで、まわりの家を見ると地面に直接草木を植えている家は一軒もありません。

 草木を育てる耕土層がないのです。

 そこで下に耕土層がないのなら、上に耕土層を作ってみてはどうかと考えたのです。あとから考えると、これには根気と長い年月が必要でした。

 毎年、少しずつ赤玉土と腐葉土を買ってきては投入し、十年かけて土の厚みが十aになったころ、ようやくパンジーやビオラなどが育つようになりました。

 さらに十年ほど続けて二十aになると低木のレンギョウやニオイバンマツリ、桑の木も育つようになり、三十aになるとグラグラしていた松の木も簡単には揺らがなくなりました。

 そして草木が繁り、鳥や蝶がやってくる庭になりました。

 一般に、根は水分の勾配を感知するとその多い方へ曲がってのびる性質を持っています。

 そのため根は、土壌が湿潤であれば太くなって分布は浅いところに集まりますが、乾燥していれば細くなって地中深くにもぐりこんでいきます。

 毎年、赤玉土と腐葉土を入れた結果、土の団粒化が進んで根が利用できる水、つまり土の粒子の間にある水を多く含むようになりました。

 常に水分を保持しているせいで、草木はお互いに水を奪い合うこともなく、根は浅い耕土層に収まっているのです。

 また、根は遺伝的に伸びる角度が下向きの品種は深い根系になり、横向きの品種は浅い根系になります。

 これは遺伝的に重力を感知しやすいかどうかで決まり、感知の強い品種は下向きになり、感知の弱い品種は横向きに伸びるからです。この重力に対する根の屈性は一つの遺伝子によって決まっているいわれています。

 しかしこの庭では、下に行きたいタイプでも三十aの耕土層より下へは行けず、横に行きたいタイプでも隣の植物を越しては行けません。

 やむなく根は限られた範囲にとどまって細根を増やす方向に進み、本来持っている遺伝的な欲求は抑えられているのです。環境は遺伝的な特性よりも強いのです。

 普通なら地面の上に栽培用の耕土層を作ると言えばおかしな気もしますが、畑ではわざわざ畝を作ってそこに種をまき、時に土寄せしながら野菜を栽培しています。
 ここでの耕土層は畝だと思えば、少し納得できます。

 ですから、どんなに土地が悪くても 赤玉土や鹿沼土などの火山灰土に腐葉土をまぜ、化成肥料を少し多めに入れて、層を作るように土入れを繰り返すだけで良い畝ができるのです。

 ただ、草木にとって望ましい環境は雑草にとっても好ましいので、手をぬけばすぐに雑草が繁茂してしまいます。とりわけ腐葉土には雑草の種子が混じっているので早めの除草が必要です。

 これからあと何年くらい土入れを続けられるか分かりませんが、耕土層が五十aほどに盛りあがったとしたらそれはそれで見ごたえがあるでしょう。

 他愛のない老人の楽しみですが、道行く人の目を楽しませるためにも続けていきたいと思います。