折々の記 58

タコ焼きを作りながら考えた


  私ができる数少ない料理にタコ焼きがあります。入れるタコが大きいこととダシが効いているのでタレをかける必要がありません。それに天カスを入れるのでカリッと仕上がります。

   粉にはいくつか種類があり、日清製粉フーズのものを使っています。粉の中身はただの小麦粉ですが、最近、少し質が変わった気がします。
  外はカリカリ、中はトロトロというキャッチフレーズになってから、水に溶いたときのトロミが少なくなったように思います。だから時間をかけて焼かないと、ピックで返そうとしても崩れてグチャグチャになってしまいます。
  小麦粉は含まれるタンパク質の含量によって粘り気が大きく変わるので、粉の性質が微妙に変わったのかもしれません。これは単なる勘ですが。


   たしか1968年に、アメリカからウエスタン・ホワイトという軟質小麦を輸入したときのことでした。これを薄力粉にして販売したところ、ビスケットやクッキーは薄く広がりすぎて形が崩れ、タコ焼きは丸くならず、麺は煮崩れてコシがなくなるトラブルにみまわれました。

   原因は収穫前の小麦が雨にぬれて穂発芽したことでした。穂発芽というのは、麦粒が穂についた状態で発芽してしまうことです。麦は熟すと穂の上にあっても、濡れると発芽するのです。
  発芽するときはデンプンはもちろん、グルテンなどのタンパク質も分解されて胚芽の発育に使われてしまったので、粉にした時の粘り気がなくなっていたのです。これは極端な例ですが、小麦の栽培の状況によっても粉の品質が変わることを示しています。

   一般に、小麦の中のタンパク質は多いもので12%、少ないものでは8%です。その差はたった4%ですが、粉にしたときの粘りや膨らみはかなり違ってきます。
  タンパク質が多いものは強力粉とよばれ、粘りが強く膨らみもよいのでパンやパスタ、ピザに使います。
  タンパク質の少ないものは薄力粉とよばれ、粘りが弱くて軟らかいのでタコ焼き粉やスィーツ、ケーキ、菓子、てんぷら粉に使われます。その中間が中力粉になり、うどんや中華麺、餃子の皮になっています。

   製粉会社はこれらに加えて産地・銘柄が異なる小麦をブレンドして微妙に性質が異なる小麦粉をつくっています。いまや日本の食糧に占める小麦の割合は4割を超えていて、そのぶん小麦粉に対するニーズも多様化しているのです。

  日本で小麦ができにくいのは収穫期が梅雨と重なって品質や収量が落ちやすいからでしょう。そもそも冷涼で乾燥を好む小麦を水田で作ることに無理があって、梅雨のない北海道の畑が小麦に適しています。

   そのため小麦のほとんどをアメリカやカナダ,オーストラリアから輸入しています。これらの国々では乾燥した広大な畑を使って大量に小麦を作り、日本が求める高品質な小麦も生産できるのです。
  こうした輸入量は490万dといわれ、面積に換算すると7千kuになるので岡山県がすっぽり入るほどの畑になります。

  アメリカなどの国々では、こうした広い農地と地下水に加え、人々の労働力を提供してくれているわけで、狭い日本にとってはそのぶん国土を広げたようなもの。
  おかげで、朝の食パンや昼のうどん、夜のトンカツと小麦のお世話になっているうえ、タコ焼きやお好み焼きを楽めています。