折々の記 41

鳥たちの旅立ち
   セグロカモメが北へ旅立って十日がたちました。四月の中旬に一度姿を消したですが、戻ってきました。ウミネコも一緒に連れています。渡りの中継地へ行ったところ何かあって出直すことにしたのでしょう。
  頭上を旋回しながら盛んに合図を送ってきます。手を振って応えると波打ち際へ降りてきて歩きながらついてきます。野生のカモメとは思えないほど人になれています。これで無事に渡れるのかと心配しましたが三日後に南風が吹きだすと去っていきました。

          仁王立ちのセグロカモメ。 歩きながらついてきます
   最初に渡りを始めたのはユリカモメです。 三月中旬のまだ肌寒い朝に数百羽の群れが河口から消えていました。顔が黒い夏毛に変わり始めていたので渡りは近いと思っていたところでした。
                     姿を見て飛んできたユリカモメたち

         ユリカモメの皆さんが防波堤の上で整列しています
   続いてはウミネコです。 三月下旬の春一番が吹いた日です。沖合に千羽をこす大きな群れが一列になって波間に浮かんでいました。それまでは砂洲や防波堤に百羽ほどいたのですが、南の方から群れを吸収しながら北上してきたのでしょう。突然一斉に飛び立っていきました。
              優雅に空を飛ぶウミネコ
   庭にやってくるメジロは桜の花が咲きだすと川岸の桜並木へ移り、花が散るとともに姿を消しました。庭を走りまわっていたツグミや鋭い鳴き声が自慢のヒヨドリ、屋根の上で上手に歌っていたイソヒヨドリも姿を消しました。そして池のマガモやオオバンもいつの間にか姿を消し、最後にセグロカモメが旅立ったのです。
                ツゲの木の上が餌場のメジロ

                  ピョン ピョン と跳ねるように移動するツグミ

                ツグミの餌を失敬するヒヨドリ

             美しい声で歌いつづけるイソヒヨドリ

                          浅瀬を歩いて渡るマガモ

            白い顔もようが特徴のオオバン
   外国へいく鳥もあれば国内を旅する鳥もいて、旅立ちの時期は少しずつ違っていますが、五月の上旬までには皆去っていきました。

  彼らはどのように旅立ちの時期を知るのでしょうか。産卵や子育てという営みに関係があるのでしょうか。鳥は体内に時計を持っているので時刻を正確に把握しています。春分の日をさかいに日が長くなることも知っています。日が長くなると脳の下垂体がホルモンを分泌し、視床下部に働きかけて生殖器の発育を促がします。その反応の素早さは長日下にたった一日おいただけで卵巣を発育させるホルモン濃度が急激に上昇するくらい敏感なのです。
  つまり日長の変化はただちに生殖器の発育をもたらし、それが繁殖地への移動という行動につながっているのでしょう。越冬地の気温だけを目安にしていると北へ渡ってみたら川が氷っていて餌が採れない、ということになりかねません。年によって変動のない日長をもとに行動しているのです。それに先遣隊を派遣して帰る先の様子を調べているようです。
   なお、渡りの気分が高まったからといって直ちに飛び立つわけではありません。そうした気分になった者が集まり、他のものに伝え、その気になる者がまとまったところでリーダーの合図によって飛び立ちます。    渡りを通じて若鳥たちは年長者から飛行経路や中継地点、危険な天敵への対処法などを学びます。 勢いがよすぎて群れの形を乱す若鳥がいれば後方にいるベテランが注意します。渡りは鳥たちにとって生きる術を身につける場でもあるのです。