折々の記 48

秋分の日とおはぎ


   秋分(9月23日〜10月7日)を過ぎたあたりから月の光が煌々とさえわたりお月見にちょうどよい季節を迎えます。大陸から冷たく乾燥した風が吹き始め大気中の水蒸気が減って空が高くなり月がくっきり見えはじめます。秋は立秋に始まっても本当の秋を感じるのは秋分の日からでしょう。
  秋分の日はお彼岸の中日にもありお墓参りにいく人で墓地のまわりは線香の匂いにつつまれます。お盆はご祖先さまがもどってこられますが、お彼岸には三途の川をはさんで向こう岸つまり彼岸(ひがん)までやってこられて川をはさんで会うのです。 『向こう岸のご先祖さまを大勢の中から見つけるのは大変だ』とか『混みあって三途の川に落ちないか』といった妙な心配をしたものです。
   お彼岸につきものなのは『おはぎ』です。母方の墓参りには親戚が多く集まるのでお盆にべチャッとした黒い『おはぎ』が並べられます。その形が少しくずれた黒っぽい固まりを皆はボタ餅と呼んでいました。だからボタ餅と聞くとあまりよい印象がないのです。
  そのボタ餅は『おはぎ』ともいわれています。 『おはぎは粒あん、ボタ餅はこし餡』という人もいれば、『秋に食べるのがおはぎ、春に食べるのがボタ餅』という人もいます。どちらも同じものですがお店では『おはぎ』の名で売っています。年をとるとこのおはぎが妙に懐かしくなるときがあります。近くの店で買っていましたが、ある日粒あんのおはぎが姿を消えたのです。代わりにこし餡を薄く塗ったようなものが並んでいます。粒餡派の自分としては衝撃を受けました。その後、樹木希林さんの『あん』という映画を見たこともあって自分でおはぎを作ることにしたのです。
  小豆には大納言と普通のアズキがあり、大納言は煮崩れしにくく上品な粒あんになりますが粒々感がつよいので豆がこわれれやすい普通のアズキを使います。一晩、水に浸けたアズキを中火で30分ほど煮たら一度煮汁を捨て、新たな水でふたたび1時間ほど煮ると豆はだいぶ柔らかくなります。浮かんでくる軽いアズキは取り除き、さらに30分ほど煮詰めるとピチピチピチという音がしてきます。良いころ合いだという豆の合図です。そうすれば弱火に落として砂糖を加え、焦げつかないように木ベラでゆっくりとかき回します。15分ほど練ったら、バットなどに小分けにして、余熱がとれたら冷蔵庫で保管します。
   もち米とうるち米を半々の割合で炊いたものをよく混ぜて、こねて丸めて形を整え、粒あんで包めばおはぎの完成です。
   このおはぎはいくら食べても胃を悪くすることがありません。 それに買っていたものより美味しいので、それからは店で見かけても食指が動かなくなりました。
   中秋の名月は9月21日なので彼岸の入りの翌日です。お墓参りをしたあと『おはぎ』を食べながら月見を楽しむのも良いでしょう。お彼岸の中日(9月23日)よりもすいているので押されて三途の川に落ちることもないはずです。