折々の記 56

  つえ・杖


   このところ杖を買おうかどうか迷っています。足を痛めてバランスを崩すようになり転ばぬ先の杖があった方がよいだろうと思うのです。ただ杖には色々と種類があってどれが良いのか迷ってしまいます。

   たとえば金剛杖は遍路杖(へんろづえ)とよばれお遍路さんが持っています。遍路ころがしと言われる山野を行くには不可欠です。杖には同行二人と書いてありお大師さんと一緒に歩けるありがたい杖です。
   また、お年寄りが使っている補助杖もあります。T字の握りはつかみやすく、杖が伸縮したり折り畳めたりできるものもあり軽くて扱いやすいうえ種類も豊富です。
   ほかにチャップリンやシャーロックホームズが使っている黒っぽい木製の一本杖もあります。ヨーロッパでは紳士の持ち物として愛用され、日本でも大正から昭和の始めにかけて流行りました。こうしてみると、どれも良さそうで決めかねてしまいます。

    映画のハリーポッターの中で、魔法の杖を作っているオリバンダーは『人が杖を選んでいるようだが、杖には一本一本個性があって杖の方が持ち主を選んでいる』 と言っています。杖の個性や持ち主との相性は素材となる木の性質で決まるらしい。ハリーポッターの杖は柊(ひいらぎ)でつくられ、ハーマイオニーはブドウの木、ダンブルドアはニワトコの木から作られています。

   今回、買おうと決めたのは魔法の杖ではありません。悩んだ末に注文して外国から送られてきたのはカエデの木でできた一本杖でした。
握りの部分は丸く曲がった正統派。

   オリバンダーによれば、『カエデの杖は試練や新しい環境のもとで持ち主と共に鍛えられて成長する』といいます。もし杖が自分を選んでくれたのなら、まだまだ鍛えて伸びる余地があるのかもしれません。医者から『神経痛は筋肉の老化によって起きるので治ることはない』と言われていますが、ひょっとすると克服できる日がくるかもしれません。