折々の記 50

蝶の道

  庭に蝶が飛んできます。タテハチョウの仲間で羽根が赤っぽいヒメアカタテハです。夏のころは毎日のようにやって来ました。庭へくる道と出ていく道は決まっています。
  裏にあるナンテンの木を越えてやってきて、庭を一周すると桑の葉にとまり、ひと休みすると生垣のきれたところから出ていきます。桑の木を切ったあとはキンモクセイが休憩場所になりました。帰ってくるときはその逆のルートを飛んでいます。
  まるで蝶の道があるように同じルートをたどって往復します。そしてここ数年同じ光景を見ているのです。タテハチョウは一化性なので毎年新しい個体です。親から教えてもらっているわけではありません。

  専門家によれば、蝶の視力は1bもなくむやみに飛んでいて、目にする色に反応し見つけた花の蜜を吸い見つけた異性と交尾して見つけた葉に卵を産んでいるらしい。偶然の出会いを求めて飛んでいるので、出会う頻度を高めるために蝶はひたすら飛び回っているといいます。
  蝶は幼虫がすぐに餌を食べられるように餌となる植物を選んで卵を生んでいます。多くはレンゲやギシギシ、カナムグラ、アブラナ科などの雑草が多いので開けた土地ならいくらでも生えています。そうした場所には仲間も多くいるので飛び回っていれば交尾の相手や産卵場所に不自由はないのです。だから決まったルートを飛ぶ必要はなく蝶の道など存在しないというのです。

  ただ、アゲハチョウの仲間だけは例外らしく、幼虫の餌となるミカンやカラタチはむやみに飛び回っても見つからないし野原よりも背の高い林に多いので自然と決まったコースを飛ぶようになり、それが蝶の道といわれています。その点、ヒメアカタテハの幼虫はハハコグサやヨモギなどどこにでもある雑草をエサにしています。むやみに飛んでいても大丈夫なのです。やはり庭へ立ち寄るのは偶然なのでしょうか。

  最近、蝶をはじめとする昆虫には方向を感知したり学習したりする能力のあることがわかってきました。海を渡る蝶として知られるアサギマダラは北関東から2000`も離れた沖縄諸島まで飛んでいきます。また、ヒメアカタテハは何百万匹も群れになって北欧からアフリカまでの1万5000`を移動しその往復には6世代を費やしているようです。渡りをする蝶にとって方角が分からなければ海の藻くずと消えてしまうので、渡りに必要な能力や知恵が備わっているのでしょう。

  それに、ヒメアカタテハのオスは縄張りをもち、その範囲を往復する習性があることも分かってきました。庭を通るヒメアカタテハも縄張りを巡回しているのかもしれません。我が家の庭が巡回のルートにあるのなら当分のあいだ庭の木々をそのままにしておきます。