折々の記 44

 夏の節気


  夏は立夏(5月5日)で始まり、立秋(8月7日)でおわります。その間に立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑の六つの節気がならびます。
    立夏(りっか)は若葉のみどりが濃くなって新緑が映える初夏であり、小満(しょうまん)は無事に麦を収穫できて少し満足できるころ。芒種(ぼうしゅ)で田植えを済ますと、夏至(げし)になって本格的な夏を迎えます。七夕あたりの暑さは耐えられるので小暑(しょうしょ)ですが、その後厳しい暑さの大暑(たいしょ)がやってきます。お盆が近いと朝夕涼しくなって秋の気配を感じます。そうなると立秋になって夏が終わります。

   三十一候の温風至(あつかぜいたる)は七月七日の七夕あたりです。温風、つまり湿った南風(ハエ)が流れ込んで雷雲を発生させるのでカミナリが鳴りはじめます。梅雨明けのきざしです。雷鳴ととともに咲くのが合歓の木(ねむのき)です。花の根元は白っぽく先に行くほど薄紅色になりエスニックな感じですが、万葉の昔から日本にありました。夜に葉が眠るように閉じておじぎをするので眠る木(ねむるき)といわれ、それが「ねむの木」の名前になりました。

               合歓の木の花
   大暑の三十五候には土潤溽暑(つち うるおうて むしあつし 7月27日から8月1日)があります。気温が高く湿度も高く息苦しさをおぼえます。この候の八月朔日(ついたち)は八と朔をあわせて八朔(はっさく)とよみます。

  八朔は柑橘にもその名があって、木にならしたままの実を8月1日に食べてみたら美味しかったので八朔と名づけたとか。晩柑類にはこの手の話がよくあります。八朔は3月までに収穫して4月から5月にかけて出荷されていて木につけたままでも8月にはスカスカになっています。この柑橘は広島県の因島にあった雑柑のひとつです。はるか昔にこのあたりにいた村上水軍が遠く南方に出かけていって持ち帰ったものらしい。グレープフルーツと甘夏をミックスしたような爽やかな味がします。もとはブンタンと九年母(クネンボ)が自然に交雑したものですが、瀬戸内の島々にはこうした正体のよく分からない柑橘があります。

                 八朔の果実
  三十六候に大雨時行(たいう ときどきにふる 8月2日〜6日)があります。
   大雨は積乱雲が発達しておこる夕立のこと。最近ではめっきり少なくなりました。かつては夕方になるとカミナリが鳴り冷たい風とともに雨粒が音をたてて落ちてきて一気に暑気がおさまりました。

  夕立のほか夏の風物詩には露草(つゆくさ)があります。夏のあいだ路傍で小さな瑠璃色(るりいろ)の花を咲かせます。露草を集めて絞った汁を和紙に塗りその後、乾燥と塗りを繰り返すと濃紺の青花紙ができあがります。京都の手描き友禅ではこの青花紙をちぎって水を注ぎ、溶けだした青で下絵を描きます。この青は露草色とよばれて水にあうとすぐに流れてしまうため下絵に使いやすいのです。染まったようで、はかなく消えてしまうので「うつろう色」ともいわれます。