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蚕と絹のあれこれ 22

人工飼料で蚕を飼ってみませんか

   蚕は桑の葉しか食べません。桑には蚕の成長を阻害する物質がないので、それを匂いで感知して食べているのです。であれば桑の葉の成分をしらべれば人工的な餌を作れるのではないか』と研究者たちは考えました。
   蚕は桑の葉を食べてから数時間で腸を通過し排出させるため大部分は未消化のままです。だから栄養面の要求はさほど厳しくはないだろうと、家畜用の飼料をもとに考えたのですが、虫は牛のようにはいきません。吸収のバランスを考えて組成を組み立てる必要があったのです。 そして脱脂大豆粉末にトウモロコシのデンプン、セルロース粉末、大豆油、大豆ステロール、ショ糖、クエン酸、アスコルビン酸にビタミンB群でつくられた人工飼料を作り上げたのです。 栄養面ではこれで十分ですが、蚕はエサの硬さに敏感なところがあり、水分率を75%にして寒天で固めることでクリアできました。それに匂いに敏感なので食欲を高めるためにも桑葉の粉末が欠かせません。これらをボールに入れて水を加え、かきまぜてアルミ製の弁当箱につめて蒸し器で20分ほど加熱すれば人工飼料の完成です。冷蔵庫で保存すれば3か月はもつので、これを小さく切って蚕に与えます。
    人工飼料の開発では、蚕が丈夫に育つのは当然のことながら、桑の葉で育てたときと同等の繭が作れることが必要でした。それをクリアして全令を人工飼料で飼育できたのは1960年のこと。そして生産現場で使われ始めたのが1977年です。
   稚蚕期(ふ化から2令まで)は蚕が小さいので飼育する面積が少なくてすみます。そこで昔から温湿度を調節できる部屋でまとめて飼育する方式がとられ、養蚕農家の女性たちがにぎやかに話しながら飼っていました。それが桑から人工飼料育に変わると人手がいらなくなったため、女性の出役がめっきり少なくなりました。技術の進歩は時として、おしゃべりという女性の天性の楽しみを奪ってしまいます。 

 人工飼料のシルクメイト 1本500g
   少量の蚕を人工飼料で育てるときは、飼料(ソーセージ型)を厚さ4_の輪切りにして箸でプラスチック容器にならべます。 ついで羽箒(はぼうき)で孵化したての幼虫を飼料のうえに落とし、蓋をして28℃前後においておきます。蚕が新しい餌に取り付いたら古い餌を取り除きます。その後はエサの減り具合を見て適宜、飼料を切って与えます。4日目に蚕が眠に入って動かなくなれば、飼育容器の蓋をとって乾燥させます。眠からさめて2令になれば、飼料を厚さ4_、長さ5aくらいの短冊状に切って与えます。4〜5令になると蚕の食欲は日ごとに旺盛になっていくので、夜中に餌がなくならないように注意しましょう。


 人工飼料で飼育中の5令3日目の蚕  人工飼料の上にのっています
    5令の8日〜9日目には体があめ色に透けてきて糸をはき始めるので蔟(まぶし)に移します。新聞紙を丸めて筒状にして中に蚕を入れて両側をねじっておいても構いません。
   蚕や人工飼料は愛媛蚕種株式会社(愛媛県八幡浜市保内町川之石 tel  0894−36−1028)で購入することができます。飼料は日本農産の製品で商品名はシルクメイト。蚕100頭を繭にまでするには4`ほどの飼料が必要になり、飼料は1本500cあたり 824円です。

            人工飼料育の必要量(蚕100頭あたり)

 人工飼料の目安
   日  数          温 度
  1令       10g    3日+眠1日        28℃
  2令              20g   3日+眠1日        28℃
  3令                  80g   3日+眠1日        26℃
    4令              550g   4日+眠1日          24℃
  5令       3,200g        9日          24℃
          3,860g        26日