繭づくり
繭は蚕が蛹に変わるための ゆりかごのようなものです。雨露をしのぐために防水性があり、湿度はほぼ70%を保つようにできています。まれに同功繭(どうこうけん)といって2頭の蚕が1つの繭を作ることはありますが、基本的には1 つの繭に1 頭の蚕という個室仕様になっています。アフリカにはラグビーボールほどの大きな繭を共同してつくるアナフェという虫がいます。それでも繭の内部は数百の部屋に分かれていてやはり個室が基本になっているのです。
収穫した繭 湿気をのぞくために広げて風を通します
蚕は 5 令になるとタンパク質を合成して液状になった絹を体内に蓄えます。その絹を貯蔵する器官は絹糸腺とよばれ、5令末期には体の多くを占めるようになります。 絹糸腺に貯蔵される絹は液体の状態ですが、蚕が口から絹を引き出そうと力をかけると、その瞬間に固形化した絹に変わります。液状の絹の内部で摩擦が起こり、繊維の粒子が結合して固体に変化するのです。
繭の糸を電子顕微鏡で観察すると、フィブロインと呼ばれるタンパク質の繊維からできていて、糸の太さは1ミリの100分の1 くらいです。 フィブロインは数百本の'フィブリル'という細い繊維からできていて、さらに'フィブリル'は数十本の'ミクロフィブリル'からできています。ミクロフィブリルの太さは10万分の 1ミリと細く、ナノ繊維よりも 細いのです。
つまり、絹はものすごく細い繊維が束になってできているわけで、繊維同士の間には微細な空間があり、絹特有の光沢や'しなやかさ'、保温性、吸湿性といった高い機能性があるのです。同時に抜群の染色性を生み出しています。
糸を吐き始めた蚕です 足場ができて繭を作り始めています。
体を反転させながら糸を何層にも重ねていきます 薄く繭の形ができてきました。
繭の完成です
蚕が 5 令の 8 日目になると体が透けてきて繭をつくるために口から糸を出しはじめます。そのため新聞紙などを円筒形に丸めて中に蚕を入れ、両サイドをねじって閉じておきます。すると蚕は中で繭を作り始めます。
飼育する頭数が多いときは、下の写真のようなボール紙でできた蔟(まぶし)を使います。蔟に蚕をとりつかせると蚕は空いたマス目に入って繭を作ります。
蚕は蔟(ボール紙製)に灰って繭を作ります。この蚕は黄色い繭を作る品種です。
蚕は、まる一日かけて 1300bほどの糸を吐いて繭を作り、その後2 日ほどかると蛹に変わりはじめます。そして 2 週間後には蛾に変わるので、繭を作り始めて 8 日目くらいに繭を集めます。集めた繭は乾燥させて冷蔵庫などで貯蔵します。そして、お湯で煮て糸をとりだしますが、蛾になるのを観察する場合は箱に入れて保管しておきましょう。
座繰繰糸 繭10粒で一本の生糸にします 生糸ができた状態
蛾の体は大半が生殖器で占められて消化器などは痕跡をとどめる程度に退化します。わずかに残った小さな胃には少量の弱アルカリ性の胃液が入っています。繭の中で羽化した蛾は、繭の薄いところに胃液を吐きつけ糸同士を固めている糊成分(セリシン)を溶かします。そしてわずかな隙間を押し広げるようにして繭から出てきます。羽化の時期は、朝早いので見逃さないようにしましょう。