折々の記 84

花 色


  季節が移り、春を彩った庭の花たちにも終わりが近づいています。
  カラフルなパンジーに始まり、紫のムスリカ、淡い黄色のミヤコワスレとつづき、香り高い白いニオイバンマツリ、そして今はニチニチソウと黄褐色のアルストロメリアが盛期です。

  別に意識して植えたつもりはないのですが、盛りを迎えた花々がうまい具合に交代しながら小さな庭を彩ってきました。


                          アルストロメリア
  それにしても花の色の鮮やかさには驚かされます。
  とても人の手では作れないような色や模様を描いています。
  色があまりにきれいなので染色に使おうとしても、これがうまくいきません。色が微妙に変化するうえ繊維に定着しづらいのです。

  この色の正体はアントシアンという物質です。
  ギリシャ語でアントは『花』を意味してシアンは『青』をさしています。
つまり『花の青』という名ですが、実際には赤であったりピンクやオレンジ、青紫や青などの色に関わっていて、遺伝的に欠陥がある場合は白色になります。

  このアントシアンにはいくつかの種類があって植物によって含まれる種類が違うため、それぞれの花に特有の色ができています。
  ですが植物にとっては、生育に必要な代謝の過程で作られた物質なので状態としては不安定であり、色が褪せやすいのも仕方ありません。

  ですから『花の色は移りにけりな いたずらに…』という和歌になるのです。

  ちなみにナスやブルーベリー、ブドウ、イチゴなどの色もアントシアンによるものであり、抗酸化作用があって健康によいとされています。
  たとえば、ブルーベリーを食べるとアントシアニンによって網膜にある色素の合成が促進されるので、4時間ほどで視力の改善が図られるといいます。ただ、その効果は24時間しかもたないのですが。


  イチゴのべにほっぺ  11月から続く収穫が終わろうとしています。

         ブルーベリーを収穫する人たちは大忙しです。

             大粒の種なしピオーネ
  さて、いつの間にか木々の若葉は濃い緑に変わり、季節は初夏に移りました。庭の草花も葉を茂らせて花の終わりをつげています。

  そんな中、花屋の前を通ると青いデルフィニウムが活けてありました。
  目の覚めるような青は、アントシアンのうちのデルフィニジンという青の色素によるものです。
  その名がデルフィニウムの語源になったかのようですが、じつはラテン語のドルフィン、つまりイルカが本来の語源でした。花のつぼみの形がイルカに似ているのでその名がついています。

  気温の上がるこれからは、青色や紫の花が似合います。
  家庭で地植えしている花が終わると切り花の季節に移ります。花の農家にとっては出荷にむけての忙しい時期を迎えます。


        青いシネンシス系のデルフィニウム

          木々の葉が若草色から萌黄色に変わりました