折々の記 105

続・病室のつぶやき


 前回に引き続いて病室暮らしについて書いてみます。

 この病院では3階から10階までの各階にあるラウンジを除いて各病室にWi-Fiは通っていません。

 病室には電子機器が多いうえ看護師の業務用スマホと電波干渉を起こしかねないことから整備しなかったらしいのです。

 しかし今や患者は病室内でもスマホが使え、それでユーチューブを見ることもできます。

 であれば、病院を建て替えた5年前に電波環境を整えたうえで各病室にWi-Fiをつないでも良かったはず。本当はそこまでの予算がなかったのかもしれません。

 そのため、朝のラウンジには英語で会話しながらテレビ電話をしているキャリアウーマンや分析資料のデータを送信している健気な会社員もいます。
 それに四人部屋の人は部屋で電話すると周りに迷惑になるため、ラウンジに来てスマホで話しています。
 
 Wi-Fiがない代わりなのか、病室には気晴らしに点けておくテレビとあまり冷えない冷蔵庫が据え付けてあり、プリペイドカードを差し込むと使えます。

 カードはラウンジにあるカード販売機で買えますが、二日で千円が消えていきます。

 それを聞いた神戸に住む娘が、ポケットWi-Fiのルーターをレンタルしたうえで送ってくれました。

 スマホの半分ほどしかないルーターをパソコンにつなげて所定の暗号を打ち込むと、あら不思議 ! 病室でもたちまちインターネットにつながりました。

 そのため病室に居ながらニュースやドラマを見たり音楽を聞いたりできるほか、病気に関する知識も調べられて快適な入院生活になりました。

 そしてなぜ胸骨骨髄炎に感染したのか、その原因らしきこともわかりました。

 この病気への罹病は、免疫力の落ちた老人が肺炎を発症したあとに感染することが多いらしいのです。

 そういえば去年の9月にコロナに罹ったあと、咳がつづくのでかかりつけ医に診てもらったら肺炎に罹ったあとがあると言っていました。

 それから間もなく虚血性心不全と胸骨骨髄炎になったのです。
 一連の経過をみれば、これらの病気はコロナによって引き起こされた副次的な病い。まことにもってコロナ、恐るべし !

 ところで入院して真っ先に困るのは食事でしょう。病院側が三度の食事は提供してくれるので勝手にデリバリーを頼んだりはできません。

 病院地下に調理場があって管理栄養士が献立づくりや食材の発注・検品、厨房での業務などをこなしています。
 
 入院当初に、なんの手違いか腎臓病と高血圧、高脂血症に糖尿病といった病名がつけられて、塩なし、醤油なし、ドレッシングなしの特別食が用意されました。

 調味料を極限まで削って舌の味覚テストをしているような食事です。よく言えば素材の味が十分すぎるほど楽しめる料理です。
 加えて老人なので若い人の量は食べられません。
 
 だから毎食の半分以上は残してしまう日々が続き、体重はみるみる落ちて60`台になりました。長年、目標にしてきた体重が思いがけずに達成できたのです。

 ところが医師と看護師の動きは別でした。このままでは栄養不足になるので胃にチューブをいれて流動食を流そうと話し合っていたのです。

 知らぬが仏とはこのことです。差入れのいなり寿司やおこわ、菓子類を食べながら、じつは小食なんですと言い張っていました。

 すると管理栄養士が病室にきて話し合いが持たれました。
 
 そこで『肉と魚は食べられません。年をとって肉は噛み切れず、魚は子供の頃から食べていません』と伝えると、この老人はベジタリアンではないかという話しになったようです。

 翌日からは俄然サラダの量が増えたほか、豆腐とエビのすり身、ホタテを駆使した料理に変わりました。さらにカロリーを補うためのチョコや栄養剤までついてきます。

 それ以来、自宅からもってきた減塩しょうゆやドレッシングの活躍もあって毎回完食できるようになりました。
 ですから病院食がつらい場合は看護師を通じて食事に対する要望を伝えると良いでしょう。

 ここでは3階から10階まで40室ずつ病室があるので、調理員は朝昼晩にそれぞれ320室分の料理を作っています。

 そしてできた料理は加熱ができる運搬車で各階に運び、それぞれの患者のもとに持っていきます。そしてあとで容器も回収します。まことにご苦労なことなのです。

 ですから、今はきれいに完食し、トレーを下げてもらうときには感謝の言葉を伝えるようにしています。