蚕と絹のあれこれ 32

蚕に心臓はありますか

   蚕のからだは外側を弾力のある皮膚が包み内部は血リンパ液という体液で満たされています。体液の中には筋肉でつながった臓器のかたまりがあり、臓器をつなぐ血管はありません。人は血管を流れる血液が酸素や栄養素などを臓器に運んでいますが、蚕は浸かっている体液から臓器が直接、栄養を吸収しているのです。
   そして酸素は気門という外に開かれた孔から吸い込まれ、細い気管を通して臓器へ直接送られるので、人のように血液にたよらなくても大丈夫なのです。
   問題は臓器が浸かっている体液が体の中でよどんでしまうと、白血球や栄養素に偏りができてしまうので臓器に支障がでてしまいます。そのため体液を循環させるポンプが必要になるのです。人は心臓がその役割を果たしていますが、蚕ではどうなんでしょうか。人の心臓のように筋肉の塊のような臓器はありませんが、ポンプの役割を果たす細長い管があります。
    管は体の真ん中を頭からお尻まで真っすぐに通っていて、伸縮しながら体液を後から前へ規則ただしく送りだしています。管の前口は開いていて送り出された体液は体の中を循環したのち、管の途中にあるいくつもの孔から吸い込まれています。管は背中の皮膚のすぐ下にあるため、外からでも脈打っているのを見ることができます。数えると脈拍はおおよそ一分間に50回ほどですが、人と同じように動きまわったり気温の高いときには脈拍が多くなります。ですから、蚕にも心臓はあるわけです。
  蚕の体には血管がないだけに筋肉の塊がポンプの役割を果たすにしても体が長すぎて隅々まで送り届けられません。体全体に体液がいきわたるには、心臓も管のように細長い方がよいでしょう。 
 
  蚕の背脈管(心臓)の模式図              背脈管の顕微鏡写真
心門から流れ込んだ血リンパ液が筋肉の
収縮によって前方に送り出されます。弁が
逆流を防いでいます。