桑の実と桑の乳
昨年の秋に、庭の桑の木を切り倒したのですが、株もとに細い枝が残っていたのか、この春に桑の実を少しつけました。桑の実は野イチゴを大きくしたような姿をしていて赤紫を帯び、強い甘味とかすかな酸味があります。かつて子供らは桑摘みを手伝うときに、こっそりと食べたものですが、手や口のまわりに紫色の果汁がついてすぐにバレました。
実にはビタミンCやビタミンE、亜鉛や鉄分にカリウム、さらには抗酸化能のあるアントシアニンが豊富に含まれブルーベリーなみの健康食品です。この桑からの贈り物は日持ちがしないのが欠点なので、我が家ではジャムにしていました。桑の実400gをよく洗い緑色の柄の部分を除いてミキサーにかけ、砂糖200gを加えて煮つめます。そこにレモン汁を大匙2杯とぺクチン10gを加えたら、軽くひと煮立ちさせて完成です。ペクチンのかわりにカンロ飴を一個入れるとうまくかたまります。
かつて桑の収穫といえば、桑の葉を桑爪で葉柄を掻きとるようにして摘んでいました。そのときに葉柄から乳のような液がにじんできます。舐めるとほのかに甘いのですが、液には疑似性アルカロイドという糖に似た構造をもった成分が含まれています。糖に似て虫の好む味ですが、虫の体内で糖類の消化吸収を阻害するのです。虫が葉をかじると葉脈からしみだして虫がこれを飲んでしまうと栄養が吸収できずに死んでしまいます。気の利いた虫なら葉脈を残しながら食べるのですが、葉っぱが網目状に透けてしまうので人に気づかれて駆除されてしまいます。 虫が育って大きくなれば体も丈夫になって葉脈ごと食べても問題なさそうですが、乳液には特殊な蛋白質が含まれていて腸の内膜を肥大させて食べ物をつまらせてしまいます。虫は きつい便秘になって生育が止まるのです。桑はこうした成分を作りだして虫に食べられないような工夫をしていますが、それを乗り越えて食べにくる虫もいるのです。蚕はそれの虫のひとつです。でも桑以外の植物でもそれぞれ独自の食べられない工夫をしています。それには蚕は弱いので桑しか食べないのです。