折々の記 3

  


 
   黄色く色づいた畑では麦刈りがはじまっている。麦は 5 月に入って熟れ始めるので麦にとっての収穫の秋、という意味で麦秋(ばくしゅう)といわれるようになり、初夏の季語にもなっている。今年は、春先に曇天が続いたせいで、熟すのが遅れたようだ。
   6 月初めの田植えまでには麦を刈って田を空けなければならない。それに晴れの日が続かないと麦は刈れないし、刈ったあとの麦わらはすき込む必要がある。この時期の農作業は、天気を見ながら気をもむことが多い。

   四国の麦は裸麦(はだか麦)である。裸麦は大麦の一種だが、寒さに弱いので主に西日本で作られてきた。東日本や北日本では寒さに強い大麦の方が主役である。
  明治のころ、日露戦争を前にして軍馬を増やす必要があり、大麦を馬のエサにまわしたところ東日本の人たちは食に事欠くようになってしまった。当時人々は米より麦が主食だったので大変なことである。
  政府はいそぎ西日本の裸麦を東日本へまわしたものの、大麦と違って裸麦には独特の匂いがあって人々には不評だった。それでも背に腹は代えられず、我慢して食べているうち馴染んで今では麦飯と言えば裸麦があたりまえになっている。

   その裸麦の産地である瀬戸内では味噌(みそ)も裸麦で作られている。全国的には米みそが主流だが、名古屋の豆みそと瀬戸内西部の麦みそは少数派である。味噌は麹をつくる原料が米か大豆か麦の違いだけで、醸造する原料に違いはないのだが、味は大きく違っている。



   人の味覚は幼少期に作られるので大人になっても舌が味をおぼえている。米みそで育った人間は甘い麦みその味噌汁には馴染めない。飲めないことはないが、うまいとは思えない。

   しかし最近いい方法をみつけた。麦みその味噌汁でも豚肉を入れてトン汁風にすれば甘さに抵抗が少しなくなる。それに卵を一つおとしてみるのもいい。これなら米みそよりもうまくなる。もう少し早く気づけばよかったと思っている。