折々の記 31

蝉たちの夏

   今年は梅雨が長引き気温もさほど上がらなかったのですが、八月に入ると途端に猛暑に見舞われました。酷暑と言ってよい熱さです。それに朝からセミの声に包まれて、ひときわ暑さを感じます。
  庭では七月中旬からセミの脱皮が始まっていました。夜中のあいだに壁や木の枝をよじ登り、脱皮すると早朝に次々と飛び立っていたのです。これがみなクマゼミでした。子供の頃のクマゼミはひと夏に一匹捕まえられるかどうかという貴重なセミです。オニヤンマとともに子供たちの垂涎のまとでした。

    あたこちぶつかりながら飛んできたクマゼミが桑の枝でやすんでいる

           セミは脱皮する場所をあまりえらばない
  クマゼミの羽根は薄緑に透きとおり、体は大きく丸みがあってジィージィッジィッとなき始めて調子がでてくるとシャワシャワシャワーと耳鳴りがするくらい大きな声で鳴きます。 いまも 「爺じい、シワシワ、爺じい、シワシワ」といたるところで鳴いています。

            桑の枝に針をつきたてて樹液をすうクマゼミ。
   かつては七月に入るとニイニイゼミがなき、夏休みに入るとアブラゼミやミンミンゼミがなきだして夏の盛りにはクマゼミが加わります。夏休みが終りに近づくと、夕方にヒグラシがカナカナカナーとなき出してツクツクホウシが夏の終わりを告げていました。わずかな夏の間でもそれぞれのセミに出番があって季節の移り変わりがわかりました。それがいまでは最初から最後までクマゼミだけががんばっています。ほかのセミはどこへ行ったのでしょうか。山の中なら街中よりも種類は多いでしょうが、それでもアブラゼミやミンミンゼミの勢力は確実に後退しています。

   セミは幼虫の数年間を地中で暮らしています。地上にいるのは成虫になってひと月足らずです。ですからセミの生育は地温に左右されるといってよいでしょう。地温は少なからず気温の変化に左右されます。最近の 50 年で平均気温は 1 ℃もあがっています。それに幼虫の餌となる樹が街路樹や里山でも少なくなりました。そうした環境の変化に適応したのがクマゼミでした。
  何においても一つに単純化するときは注意が必要です。多様化を阻む要素が整いつつあることを示しています。そんなことを考えていると、いきなりセミがぶつかってきました。セミやカナブンは人によくぶつかりますが、お互いのために方向感覚や視力は改善してもらいたいものです。見るとアブラゼミでした。それに松の木に小さなセミの抜け殻をみつけました。ニイニイゼミの抜け殻です。
  なじみのセミたちが残っていることに少しホットしました。

          松の木に残されたニイニイゼミの脱皮殻