折々の記 27

 柑橘の起源をさぐる

   最近は遺伝子の解析技術が進んだので、これまで分からなかった作物の起源や類縁関係がわかるようになりました。これは柑橘の研究においても例外ではありません。
   「柑橘類の遺伝子を解析して祖先となる10種を突き止めた」という論文がネイチャーに載っていました。 その10種は、レモン、ライム、ブンタン、マンダリンなどの各祖先であって、今では存在を確認できないものも含まれています。

   柑橘類は、およそ800万年前にヒマラヤ山麓の南東部に自生していた原始柑橘からライムやキンカンの祖先が生まれ、ついでブンタンやレモンの祖先ができて、その後少し遅れてみかんやタチバナなどのマンダリンの祖先が誕生したと言われています。
   これら10種の祖先種は、600万年ほど前に相互に交雑したり変異を繰り返しながら、東南アジアや中国、オセアニアに拡散していきます。そのころホモサピエンス(人類)は、まだ登場していません。
  人類が登場するのはおよそ20万年前のこと。東南アジアへ移動してくるのが 7万年から5万年前です。 その人類が登場すると柑橘の移動や種の分化は爆発的に加速します。ブンタンはベトナムで、みかん類は中国で、レモン類はインド、ライム類はインドネシアやフィリピンなどで分化を繰り返していきます。 ネーブルのもとになるスイートオレンジは16世紀に中国から喜望峰を通って地中海沿岸に伝わり、さらに南北アメリカへと広がりました。 柑橘は人類によって拡散され、栽培を通じて種の多様性を増したのです。     人類は柑橘の長い歴史の中で花粉の媒介者としては新参者です。それに花粉や蜜に引き寄せられず、果実の香りや甘さにひかれるといった特徴を持っています。 このため柑橘は人が好むような甘い果実をつくる努力を怠りませんでした。 おかげで柑橘と人類は良好な関係にあり、柑橘の子孫は地球上で繁栄しています。柑橘にとっての種の戦略は間違っていなかったようです。