蚕と絹のあれこれ 13

青は藍より出でて


 青い花は数多くありますが、その花を使って染めようとしても青色には染まりません。つゆ草の青い花も、青く染まったようにみえて水につけると簡単に溶けだしてしまいます。これは花の色素がアントシアニンという化学的に不安定な物質だからです。
   その点、古代の人たちはインジゴという色素を含んだ植物が青の染料になることを知っていました。たとえば、マメ科のインド藍(あい)やアブラナ科の大青(たいせい)、キツネノゴマ科の琉球藍などがあり、日本では蓼藍(たであい)というタデ科の植物がそれにあたります。タデ科なので道端に生えるイヌタデに似ていますが、タデ藍の方は葉に少し丸みがあって大きいうえ、ちぎって揉むと汁が青く染まります。もともと日本には自生していなかった植物ですが、中国あたりから伝わったのでしょう。4世紀前半の奈良下池山古墳からは藍染の絹織物が見つかっています。中国の呉の国から伝わったベニバナの紅(くれない)を呉藍(くれあい)とよんだように藍はかなり古い時代からありました。
   そのタデ藍の種子をもらいました。ゴマ粒より一まわり小さく黒茶色をしています。一年生で育ちが良いので春になれば播いてみようと思います。タデ藍は 7月下旬からピンク色の花が咲かせます。開花の前には葉にインジゴが蓄えられて黒ずんでくるので藍の生葉染にはその黒っぽい葉を使います。

                         タデ藍の葉 上・下

   藍染はほかの染料とは少し異なる染色のしかたをします。藍の生葉染めについて簡単に述べてみます。蓼藍の葉の色素はインジゴになる前のインディカンという成分で蓄えられています。インディカンは水に溶けないので、そのままでは染まりません。そこで水に溶ける成分に変えるのです。そのためには葉を細かく刻んで水を加え 30分ほど揉み続けます。すると葉に含まれる酵素によってインディカンは水に溶けやすいインドキシルという成分に変わります。 揉みおえた葉はガーゼに包んでよく絞ります。しぼり汁に水を少し加えて染色に使います。染める生地はあらかじめ40℃の地入れをしておき、染色液につけて染めたあとは水にさらします。はじめは茶色っぽい染め色をしていますが、水にさらせば水色に変わります。これはインドキシルが酸化されて水に溶けにくいインジゴと成分に変わって青く発色するのです。 化学的に色素を還元したり酸化したりして繊維に吸着させるのです。

    藍染めした絹糸 左:染め4回    中:染め2回  右:染め6回
  ところで『青は藍より出でて 藍より青し』ということばがあります。出藍(しゅつらん)の誉れ(ほまれ)とも言われ、弟子が師を超えて伸びていくさまを現わしていますが、「藍より濃い青色が藍で作れるか」というのが疑問です。老舗の紺屋さんに聞くと、「藍染めは青の濃さから『藍白(あいじろ)、水縹(みはなだ)、甕覗(かめのぞき)…』など22色の青があり、多くは生葉染めでも染められるようです。しかし紺藍(こんあい)や留紺(とめこん)、濃紺、褐色(かちんいろ)などはかなり濃い青なので生葉染ではできないらしい。タデ藍の葉を発酵させてインジゴを凝縮した建藍(たてあい)を使えば可能なようですが、それも何度も重ね染めする必要があるようです。手間と時間をかければ、藍から生まれた青でも藍より青くなるのです。
   ちなみに藍の葉を発酵させたスクモから建藍(たてあい)を作るには手間と時間がかかるため、染色原料店が販売している藍染セットを使います。








  藍白        水縹      甕覗       藍      紺藍    留紺          濃紺

   黄檗(きはだ)や刈安(かりやす)など黄色の染料で染めたあと、藍の生葉で重ね染めすれば萌黄色(もえぎ)や若竹色など黄緑色が得られます。先に建藍で濃い青色に染めたあとキハダなどで重ね染めすれば、千歳緑(ちとせみどり)や松葉色などの濃い緑が得られます。






   萌黄色        若竹色         千歳緑    松葉色            鶯色          木賊色
 藍は青だけでなく緑を染めるための染料でもあるうえ、木綿、麻、羊毛などの幅広い素材を簡単に染めることができるので試してみてはいかがでしょうか。