蚕と絹のあれこれ 4

 蚕はなぜ大きくなれるのか

  昆虫の幼虫は体が大きくなると古い皮膚を脱ぎ捨てて新たな皮膚と交換します。これを脱皮とよんでいます。
  卵から孵(かえ)ったばかりの蚕の幼虫は 3ミリほどの大きさです。これが成長すると7センチになり、体重では 1万倍にも育ちます。蚕の体には臓器を支える骨格がありません。皮膚が血液や臓器などを包んで支えているのです。そのため皮膚には丈夫さと柔軟性が不可欠ですが、伸びるにしても限界がありあらたな皮膚と交換するのです。そのために蚕は4回の脱皮を繰り返します。
  脱皮が近づくと幼虫はまる一日桑を食べずにジッとしています。頭をもたげて寝ているように見えるので、この状態を「眠(みん)に入いる」とよんでいます。一見、眠っているように見えますが、じつは体内では新旧組織の入れ替えが激しく行われているのです。
  古い皮膚の下には新たな皮膚がつくられ、体の中の気管や腸などの膜も一緒に更新されます。眠に入っている間は古い皮膚の下に新しい身体が作られるので少し透けてみえます。
  眠の長さは1日で終わり早朝になると脱皮をはじめます。脱皮は古い殻を脱ぎ捨てるので幼虫は胸のあたりに力を入れて背中の薄いところを押しやぶり、ゆっくりと抜け出てきます。
  脱皮した直後の皮膚はとても柔らかく、表面にはキラキラとした粉のようなものがついています。これは脱皮がスムースに進むように新旧の皮膚の隙き間に潤滑油のような液が注入され、それが乾燥して結晶になっています。結晶は尿酸やシュウ酸カルシウム、ビタミンB2などの排泄物と同じ成分です。昔から「このキラキラした量が多いほど蚕は元気になる」といわれてきました。
  蚕の脱皮は、前の脱皮のときから体重が 6倍に達するようになると脳から次の脱皮をうながす物質が出されます。その物質が前胸腺という組織に作用して脱皮を促すホルモンが血液中に分泌されるのです。
  一方、蚕の体内には幼虫のままでいようとするホルモン(幼若ホルモン)も分泌されています。脱皮を促すホルモンが増えると、その幼若ホルモンの分泌が徐々に抑えられて眠に入って脱皮をします。幼若ホルモンが完全に出なくなってしまうと脱皮ではなく蛹になってしまいます。脱皮するか蛹になるかは、幼若ホルモンの出具合によって決まるのです。