ドングリ
秋が深まってきた。朝夕はめっきり肌寒くなり虫の声もいつの間にか消えている。木々の緑は薄れ、葉は黄色味をおびてきた。近くの林ではドングリが落ち始めている。
ドングリはクヌギやクリ、ナラやカシ、シイなどのブナ科の木の実の総称である。ただ、クリの実だけはドングリと言わない。ドングリという呼び名の起源は、トチの実をトチグリと呼ぶうちにドングリに変化したとか、古語でドンは丸いことをさし、木の実をクリといったので丸い実をドングリと呼んだというものもある。いずれにしてもドングリはクリがもとになっている。
そのドングリ、戦前まで四国の山間部では日常食だった。若い頃に久万の集落でトチ餅を食べたことがある。 トチの実は3日ほど水につけてなかの虫を殺し、陽に当てて乾燥させたら杵でついて粗砕きし、皮を除いた中身だけを木灰汁で煮てアクをとる。流水で2日ほどさらしたあと乾燥させて粉にして団子や餅を作っていた。
ドングリは、古く奈良時代から使われてきた染料である。別に『つるばみ』とよばれ、漢字では『橡』と書く。クヌギのドングリだけを『つるばみ』と呼んでいたが、今ではブナ科の実を『つるばみ』と総称している。
それにドングリで染めると灰褐色から灰色に染まるので、この色も『つるばみ』と呼ばれている。
つるばみの黒はドングリに含まれるタンニンで茶色く染めたあとに鉄をふくんだ媒染液(ばいせんえき)で黒く発色させている。染色では黒に染める染料がなく、木に含まれるタンニンを鉄イオンと反応させて黒く染めている。
人々は古来よりドングリを食料や染料に利用してきたが、山の動物たちにとってもドングリは栄養価の高い食べ物である。冬を越すうえで重要な食糧でもある。また、地面に落ちて発芽したドングリは次の広葉樹となって山をつくり、その落ち葉は土となって山に栄養を蓄える。
植林が進んだ杉林よりも手つかずの広葉樹林の方が山は明るいうえ、季節とともに変化する景色は日本の原風景でもある。そろそろ日本の山も杉を切り出したあとはブナ科の自然林に戻してみてはどうだろうか。ドングリの力を借りて山を守ることも知恵のひとつだと思うのだが