立ち止まってみてごらん   

 

      今月のフォト    6 月                  

       折々の記    98        墓じまいの悩み  
        折々の記    99  みかん王国から柑橘王国へ 
      折々の記 100     続・墓じまいの悩み   

      折々の記 101    続々・お米の話 

 昨年来、お米の値段が高騰して、『卸が流通を止めて値をあげているのではないか?』 といったマスコミの論調がありました。

 でも実際に卸においても小売でもお米が無くなっていたのです。信じられないことですが。

 お米の消費量は減ったとはいえ、ひと月あたりおよそ60万dです。

 新米が本格的に出回るのが10月なので、翌年の9月までは保管したお米を食べ繋がなくてはなりません。その過不足をみるのが、経験的に6月末の市中にある民間在庫の数量です。

 国はその適正在庫を100万dとしていますが、実際にそこまで少なくなったことはありません。 

 概ね170万d前後できていますが、一昨年の6月には153万dに減りました。

 この段階で米不足を予感したのは一部の卸だけでした。このときは翌年に残すべき在庫を夏場に先食いの形で消化して、問題は表面化しませんでした。でも不足分を抱えながら翌年を過ごさねばならないのです。

 それなのに、昨年6月には在庫が115 万dまで減ってしまいました。前年同期にくらべると、38万dもの減少です。

 さすがにこの減り方は問題だと多くの流通関係者は思ったわけです。

 あとでわかったことですが、これまで減り続けてきた米の消費が14万dも増えたうえ、国の需要見込みを24万dも上回っていました。それに前年に先食いした不足分は解消されないままで。

 つまり、ここ2年の民間在庫の縮小は国の需要見込みに対する一抹の不安のあらわれであり、米の生産が足りなくなっていることへの漠然とした不安にもなっているのです。

 こうした不安は今年6月末の民間在庫の数字が出れば、よりはっきりと見えるようになるでしょう。

 生産現場では、国の需要見込みに基づいて転作田や作付け面積を決めています。見込みが狂えばその影響は少なくありません。それも時間差をおいて響いてくるのです。

 また、卸は価格高騰によってずいぶん利益をあげたように言われていますが、本当にそうでしょうか。

 そもそもお米は薄利多売の商品です。取扱高が大きくても利益率は1%と低いため、思ったほどの利益はでない仕組みです。

 しかも長びく米価の低迷や米消費の減少によって存続が危ぶまれる卸も少なくありません。今回の高騰で売り上げが瞬間的に上がったとしても、仕入れ原価も上がっているので卸の厳しい経営は続くでしょう。

 お米の流通を考えたときにスタートラインに立っているのが集荷業者です。これは地域の農協をさしています。

 農協は農家が収穫したお米を集荷し、籾の状態ならカントリーエレベーターに貯留し、玄米なら冷蔵施設に保管して、卸と販売契約をむすびます。

 また、農協で構成する県農協連では子会社にライスセンターをもっています。そこでは各農協が集めた玄米を精米にして小売業界に卸しています。
 こうした農協の精米施設は全国に29か所あって、全国組織である全農のパールライスという名で大手卸に名をつらねています。

 農協は集荷業者でありながら卸も兼ねているのです。

 そう考えると、農協は米の流通において重要な位置にいるようですが、じつは農協の米の集荷量は227万dと生産量の3割を下回っています。

 のこり7割は農家や農業法人などが直接、卸や小売、消費者に販売していて、巷間いわれるほど農協にお米は集まっていないのです。かつての強力な農協の姿はありません。

 先に述べたように、米の卸といわれる業態は農協や農業法人などから仕入れた玄米を精米機にかけて糠を取り除き、できた白米を袋詰めして小売りや業務用に販売しています。

 卸の数は全国に1800社ほどありますが、売上高が500億円以上の大手の卸は6社しかなく、50億円から500億円の中堅卸でも75社です。
 それに対して売上が5億円に満たない小さな卸は1,248社もあって卸全体の7割をしめています。

 こうした小さな卸は店主だけで経営していたり、従業員がいても5人以下という零細な経営がほとんどです。食管法の時代に許可を受けた古いお店が多く、経営が厳しいために米の小売りや肥料販売、青果卸などを手掛けながら続けています。

 取り扱う数量が小さいために東北や北海道などの大量にお米が集まる取引には参加できませんが、大手の卸がまとまった量を買いつけて中堅卸に販売し、さらに町の小さな卸へ配られて全国各地にお米が行きわたっています。

 これらは卸売市場における野菜の仲卸に似ています。野菜の卸は産地からまとまった荷を引き入れて、卸売市場で相対やセリによって仲卸に販売し、仲卸は小売や飲食店などに販売しています。

 一方で平成7年からお米の販売が許可制から簡単な登録で済むようになり、スーパーやドラッグストアなどの大型量販店が一斉にお米の販売事業に参入しています。
 そして、そのバイイングパワーを背景に米の価格形成に影響を与えるようになっています。

 さらに、ここ最近は運送業や資材メーカーなどの異業種からの参入が相つぎ、流通における集荷・卸・小売といった区分がつきにくくなってきました。

 今回、全農は30万d近くの備蓄米を落札し、それを販売するための契約先が7,000社もあったというのは誇張でもなんでもないはず。

 お米の流通業界はまたまだ古い体質を受け継いでいる一方で、販売が自由化されて大きく変化し複雑化しています。

 お米は主要な食糧であるだけに安定供給に支障が生じない流通が大事です。

 今回の令和の米騒動は、近年にない米の需要増に対して、米不足を恐れる小売りや飲食業界が米を確保するため高値買取りに走ったことで起きました。
 これを教訓に、国は緊急事態における米の流通についても考えておく必要があるようです。