蚕と絹のあれこれ 26

陰で光彩を放つ黄色


 自然はごく短い間ですが、驚くほど鮮やかな装いを見せます。 秋も深まり薄霜がおりるころ、木々はいっせいに紅葉して見渡すかぎりの山々が赤や黄、赤褐色に彩られます。

   紅葉といってもモミジの紅葉やイチョウの黄葉(こうよう)、ブナやケヤキのように褐色がかった褐葉(かつよう)もあり、これらをすべて紅葉とよんでいます。 なかでもイチョウの葉が黄くなり、高く伸びあがった木全体がすっぽりと黄金色に包まれた姿は秀逸です。こうした鮮やかな黄色を染めるためにはキハダ(黄檗)という染料を使います。

               キハダのコルク層
   キハダはみかん科の落葉樹で樹皮の内側にある黄色いコルク層が染料になります。 染色性が高くて鮮やかな黄色に染まるので、和紙をキハダで染めて経典の写経に使ったりしていました。 黄色の成分は ベルベリンといって防虫の効果があるので大切な経典を虫から守るほか墨の字が黄染紙に映えるので美しさを演出しています。
 
             刈安の葉と茎
   おなじ黄色でも 青味がかった淡い黄色は 刈安(かりやす)と言う染料を使います。刈安は、ススキ(茅)の仲間で 葉と茎に色素が含まれます。 奈良時代のむかしから滋賀県の伊吹山が刈安の産地といわれ、正倉院の文書にも伊吹刈安と書かれています
   穂のでる9月から10月に刈り取った刈安に色素が多く含まれ、色素はフラボノイドなので、アルカリ性で黄色になり 中性や酸性域では淡色になります。 そのため染色後にミョウバンで媒染すると透き通ったレモン色になり、先に媒染してから染色するとより濃く染まります。
   少し赤みがかった黄色に染めるにはクチナシを使います。漢字では支子や梔子と書きます。夏に六弁の白い花をつけ甘いかおりを漂わせる常緑の低木樹です。  10月ごろに赤黄色の楕円形をした実をつけ、これを乾燥させると染料のほかに生薬や漢方薬にもつかわれます。タクアンの黄色い色づけに使われたこともありました。 クチナシの染色では媒染を必要としません。



       黄檗色            刈安色             支子色          黄色の染料を三つほどあげましたが、日本の伝統色をみると黄系の色は意外に少ないです。 黄色は色が強すぎるので単色で使うよりも赤や茶色と重ね染めに使われ、全体としての明るさを引き出しています。
   葉に含まれる黄色の色素は緑色の葉緑素(クロロフィル)と共に光合成に関係していますが、その存在は葉緑素に隠れてしまって見えません。ただ、晩秋に葉緑素が消え落葉するまでの少しのあいだだけ、黄葉としてその姿を見せるのです。黄色は周りを明るくするだけでなく 元気になる色なのですが、案外、陰で支えることが多いのです。
  最近は年相応にくすんだ色の服を選ぶようになり、気持ち的にも年寄りくさくなっています。ただハンカチだけは黄色にして明るく元気な心を保ちたいと思っています。