折々の記 22

ユリカモメの渡り

   1 月のある日、いつも居るカモメにくらべると ひとまわり小さなカモメの群れが河口に集まっていました。くちばしの先が赤く足も赤いユリカモメです。北の国からやってきました。

                          ユリカモメの群れ 
 
                   小柄なユリカモメと大きなセグロカモメ
  ユリカモメはいつも群れで行動しています。かつて京都に住んでいたときに鴨川でみたのもユリカモメでした。川面を群れて飛んでいて、都鳥(みやこどり)とも呼ばれていたので京都在住の鳥だとばかり思っていました。
   京都に暮らす動物行動学者の日高敏隆さんは次のように書いています。『夕方四時前になるとカモメたちは次々に飛び立ち川面の上を高く輪を描いて飛びはじめ、それを追うように他のカモメたちが加わってぐるぐる輪を描きながら空へ舞い上がり何十羽という鳥柱ができる。よく見ると、最初に飛び立った何羽かは少し高い空中からまだ地上で休んでいる仲間たちめがけて急降下してはさっと舞い上がることを繰り返す。それに応じて地上の鳥たちも飛び立って鳥柱に加わる。鳥たちの柱は空に吸い込まれるように上へ伸びていき、やがて丸い集団になると突然に方向を変えて東山連峰に向かう。そして山の向こうの琵琶湖へ向って姿を消してしまう。』
   このカモメは鴨川のユリカモメのこと。 『そろそろ帰りたい』という気分になったものが『帰ろう』という意志を示して同じような気分の者に伝え、同調する者が集まると一斉に行動に移す。こうした行動を『意向運動』といって 意向を伝えて合意を形成していく鳥たちの民主的な行動なのです。

   このユリカモメは渡り鳥なので北の国から琵琶湖へやってきたのでしょう。渡り鳥が冬を越すところは群れによって決まっていて、毎年同じ場所に同じ群れがやってきます。その場所は親から子へと伝えられています。河口にいるユリカモメは琵琶湖よりもさらに足を延ばしてここへやってきたわけです。

   それにしても、あの小さな体でどれほど飛んでくるのでしょうか。カムチャッカ半島あたりが生息地と言われていますが、よくわかりません。たとえばサハリン付近だとすると1600`もかなたです。前にカモメの飛ぶスピードを測ったら時速 45キロほどありました。一日に6 時間ほど飛ぶとすれば270`くらい進むので全行程でいえば 6日かかります。 実際には飛行機のように直線で飛ぶのではなく、島や海岸線に沿って南下するでしょうからもっと日数はかかるはず。そんな遠くから来ているのだから大したものです。
   じつは、鳥には磁場を感知して方位を知る能力が備わっています。それに目は頭の両側についているので別々に違う景色を見ても真後ろ以外は見えているのです。しかも色を見わける能力は人の数倍も優れているといいます。だから上空からだと遠くまで鮮明に見えるため、特徴ある地形を覚えていて、それを目印に飛んでいるのです。まさに方位磁石と地図に双眼鏡をもって飛んでいるようなものです。

   そうした優れた身体能力と経験豊富なベテランが群れを率いているので無事に『渡り』ができるのでしょう。 でもケガをしたり年をとって帰る力がないものは群れから離れて居続けることもあります。そうした年老いたカモメをみたことがあります。 北へは繁殖のために帰るので年寄りには行く必要性がありません。次の冬に子供たちが孫を連れて帰ってくるのを待っているのでしょう。とすれば、こちらも似たような境遇です。